物理的な観点から、タイヤの限界を探りたい。

タイヤのグリップ力の限界は摩擦円と呼ばれるもので表される。

加速・減速方向の縦のグリップ力、コーナリングに使う横のグリップの総和が摩擦力の限界となる。

グリップの限界を100とすると、縦に100使用している状態では横方向のグリップ力はまったくなくなる。

ABSのない車両でブレーキロックさせると舵が効かなくなるのはこのためだ。

では、縦に50使用している時の横方向の余力は50だろうか?

実は約86使用できる。

これはグリップの限界の二乗が縦二乗+横二乗という少々ややこしい式で導き出されるためであるが、簡単に言うと、フルブレーキの状態でも、半分ブレーキ力を緩めることができれば、思っている以上に横方向へ使えるグリップが立ち上がるものだ、と覚えておけばいい。

しっかりブレーキで減速し、徐々に踏力を緩めつつステアリングを切り込み、曲がる力へ移行させる。出口が見えたら徐々にステアリングを戻しつつ加速のための駆動力を与え、真っすぐを向いたら全力加速させる。

縦から横、横から縦の限界域をなめるように移行させることが、理想的な限界の引き出し方となる。

逆に言えば、コーナリング中に何らかの要因でブレーキを強くかけたり、急加速しようとすれば、たちまち横方向のグリップ力が急激に失われてしまうことになる。

縦、横の移行は、机上では、急激なものであってはならない。机上では、というのは、実際のドライビングでは意図的に急激な操作を行うこともあるからだ。

また、摩擦円自体の大小は荷重のかかり方で変わる。

摩擦力はタイヤの摩擦係数(普通のタイヤとスポーツタイヤの材質の違い、路面のコンディション等)と掛かっている重さで決まるものだからだ。

つまり、仕事をしてほしいタイヤには十分な荷重をかけ、タイヤの限界を広げてやる必要があるし、逆にサイドターン等でリアを滑らせたい場合は、サイドブレーキをかける前にフットブレーキを強めにかけ、リアタイヤにかかる荷重をより小さくしてやる必要があるというわけだ。

このようにタイヤの限界を意識するなら、各タイヤにどのくらいの荷重がかかっているかも意識する必要がある。

実際のスポーツドライビングでは、タイヤ1本1本ではなく車全体のグリップ力やアライメントを加味して考えなければならないため、単純に机上の理想論を当てはめて、「コーナー進入からブレーキを残し、フロントタイヤに十分な荷重を与え、コーナリング中はフロントの荷重が抜けないようにアクセルを我慢して…」といういわゆる日本式のドライビングテクニックのみではなく、あえて進入後すぐにアクセルを開き、リアタイヤにも荷重を与えて仕事をさせよう、といったような欧州式のバランススロットルという考え方もあるので、1本1本のタイヤの限界のみに確執することのないように注意したい。

Posted in

コメントを残す